今回もWEB業界に転職した方のエピソードを紹介します。
広告代理店 → 専門学校 → 事業会社
伝え方で市場の反応が変わる醍醐味
簡単に私の職歴について自己紹介をいたします。私は大学卒業後、広告会社に入社しました。広告会社に入ったのも正直あまり深い理由はありませんでした。なんとなく、宣伝の仕事は華やかで楽しそうと言った、いかにも20歳そこそこの学生にありがちな発想からです(笑)。その広告会社では、求人広告の部門で営業職として働くことになりました。
求人広告の営業の仕事は、大きくわけて2つの数字を追うことになります。ひとつは当然営業職ですから売上です。そしてもうひとつは、出稿した原稿にどれだけの数の人が応募をしたかという応募数です。
私のいた会社では、ある程度の大きさの広告までは営業担当が原稿制作も行っていました。自分が作った原稿が数千から数万という人の目に付くことになり、そのうちの一定の割合の人はその原稿を通してその仕事、その会社を知り魅力を感じて応募をしてくれます。
このように、自分がよく考えて作った原稿、悩んで考えついた「魅せ方」に対し、市場の人々の反応をダイレクトに感じられる仕事にやりがいを感じるようになっていきました。
私はこのように、「自分が考えた戦略に対して市場がどう反応するか」を中心に据えた仕事、つまりマーケティングを今後の自分のキャリアに主軸にして行こうと決めました。
新卒で働いて約2年半。アラサーも視野に入ってきた25歳の時にその会社を辞めて、未経験からWEBマーケティング職として雇ってくれる会社を探して転職しました。
当時は「石の上にも3年」とよく言われたもので、正直3年未満での転職にためらいがありました。ただ、人材の広告を扱っていたので、未経験で新たな職種を探そうと思った際、早くて25歳くらい、遅くても30歳くらいまででないと、未経験で雇ってくれる会社も少なくなって来ることもよく理解していたので、行動するなら早い方が良いと思いました。何より、人生は一度切りです。1日の大半を費やす仕事において、あまり世間の価値観を気にしすぎて自分の意思を押し殺すのは後悔することになると思い、転職を決めました。
憧れと現実のギャップで試練の毎日
その後、教育系の法人にて、学生募集のためのWEBマーケティングの部門に転職が決まりました。具体的には、ゲームやアニメの制作者を育成するための専門学校で、WEB上で広告を出したり、SEO対策をしたりして自社のホームページへ誘導し、資料請求を獲得することが新しい仕事のミッションとなります。
新たな仕事に胸を高鳴らせていたのも束の間、そこでの日々は決して楽しいことばかりではありませんでした。
顔が見えないユーザーが相手の仕事
当初、一番戸惑ったのは「相手の顔が見えない」ということです。求人広告の営業をしていた頃は、Face to Faceでお客さんとやりとりをしていたので、どんな人が応募に来ていたか?その人は求めている人材像に合致していたか?合致していなかったら、どんな点が合致していないと感じたか?など、すぐにお客さんからダイレクトな声を聞くことができました。
ただ、WEBマーケティングとなるとそうは行きません。毎週、WEBサイトのアクセス数や資料請求数、有料で出稿している広告枠の費用対効果などのレポートはミーティングで共有されますが、こちらでわかるのは「数値」のみです。資料請求後、学校見学にまで結びついた人であればどんな人かわかりますが、資料請求で終わってしまった人がどんな人か?どういった点が今一歩足りなかったのか?請求フォームまでたどりついたのに画面を閉じてしまった人はどうしてあと一歩のところで止めてしまったのか?などを数値だけから予測するのは、そもそも文系出身で数字の羅列に抵抗感のあった、まだ25歳の私にはとても難しい作業で、最初のうちはとても苦労しました。それに慣れてきても苦労は続きます。
自分の仕事の成果が見えづらい
専門学校にとってWEBマーケティングは他社で言うところの先鋭の営業部隊です。非常に効率化されており、分業体制が完璧に確立されていました。私たちに求められるのはとにかく「資料請求の数」で、資料請求が完了すればテレアポの部署が電話やメール、郵便物で学校見学に勧誘。学校見学の日程が決まれば、今度は学校見学の担当の部署が案内をする、と言った具合に、部署が細分化されすぎており、自分たちの出した資料請求の数値がどれくらい売上(学生の獲得)に繋がっているか、非常に見えにくい構造になっていました。
このように、対象者の顔が見えずリアクションがわからない。自分の仕事が会社にとってどれだけ貢献しているかもわからないと言った具合に、日々パソコンに向かい合って、弾き出された数値からユーザーの状況を予測して対策を考えるという、雲をつかむような仕事になかなかやりがいを見いだせず、非常に悩んでいたのがこの時の自分でした。
そんな折、現在勤めている人材派遣を行う会社にて求職者獲得のためのWEBマーケティング職を募集しているのを知り、応募することにしました。というのも、募集要項には「新規部署立ち上げのための募集」とあったからです。
当時勤めていた専門学校では業務が細分化していたため、自分の裁量権でやれる業務も見られる数値も限られていましたが、これから部署を作っていくのであれば、セクショナリズムに固執せずに一気通貫したやりがいのあるWEBマーケティング活動ができるのではないかと思いました。28歳の時のことです。
今度は前回のような、転職へのためらいや迷いはありませんでした。確かにいろいろと試練も味わった毎日ではありましたが、憧れていた仕事であればあるほど、理想と現実のギャップが存在することは、ある程度予測はできていたからです。
何より、私にとっては「これから先この職種で食べて行こう」と思えた職種の仕事をスタートできるチャンスを掴めただけで、とても価値のある経験だったと思います。
「転職」という選択で自分の人生を自分の思ったように変えることができるという感覚が得られていたため、すぐに転職活動に取りかかりました。
転職して良かった-自分の意思で生きている実感
専門学校にて約3年間働き、28歳の時に2回目の転職を果たしました。
会社に入って最初に待っていたのは、自社WEBサイトのリニューアルです。というのも、現在の会社は当時まで本当にITには力を入れておらず、自社サイトも代表のあいさつや会社概要が記載されているだけの簡素なものでした。それを、自社が持っている求人情報を入力し、ユーザーが検索できるような求人サイト機能を搭載した大規模なサイトに作り変えようとしていたのです。
ただ、そもそもこうしたサイト制作のディレクションを経験した人が社内におらず、本社の担当者が片手間で業者とやりとりをしており、進んでは止まり、進んでは止まりを繰り返していた模様でした。ですので、私が入社して最初の仕事がこのサイトのリニューアル作業でした。これまで勤めていた会社では、最初からとてもしっかりしたサイトがあって、既に上司や前任者が決めた制作会社やWEBコンサルの会社があって、その枠の中で仕事をしていましたが、今回は制作会社までは決まっていたものの、SEO対策やWEB広告戦略をどうするかまったく何も決まっていない状況です。
新たな部署を作るわけですから当然といえば当然ですが、これまでは上司や先輩が考えた仕事のやり方がしっかりあって、そのためのツールもしっかり用意された中で効率を重視して働いてきましたが、今後は自分がその方法を考えなくてはならないことを改めて実感しました。
「勢いで来てしまったが、本当に自分にそんなことができるのか…」28歳の頃の私は突如、とても大きな不安に襲われたのでした。
しかしそんな不安とは裏腹に、仕事は概ね順調に進んで行きました。
前述のように、WEBを積極的に使ったプロモーション活動そのものにこれまで取り組んだことのない会社です。各支店が各々の予算で単発的に求人媒体に広告を出稿することはあっても、会社全体としてそれらの応募数や採用数を集めて統計を出して分析する、ということもあまり行われていませんでした。つまり、様々有効なデータはあるのに、各支店の中でその情報が完結してしまっていたのです。加えて、今度は自前の立派なWEBサイトも完成して、そこで取れるアクセス数や応募数のデータは自社のみにしか知り得ない貴重な情報資産となります。
これまで眠っていた支店が持っている様々なデータと、新しく得ることができた自社サイトにおけるアクセスデータとを組み合わせることで、単なるExcel上の数値の羅列だったものが、生き生きとした情報の宝のように見えてきました。前職時代、WEBコンサルの会社が出してくるレポートの数値だけを頼りにもがいていたのとは対照的に、自分の意思で知りたいと考え、自分の意思で積極的に調べに行ったデータとデータを組み合わせる作業からユーザーの傾向を予測する作業を、心のから楽しめるようになっていることに気付きました。
会社の「イメージ」を作る仕事へ
このように会社のあらゆるデータが集まる部署として、WEBマーケティングという職種の枠を超えて、販促物の作成や求職者募集のキャンペーンの立案、市場調査、広報・PR活動など、着実に業務のテリトリーを広げて行き、現在ではオンライン、オフライン問わず自社のプロモーションにおける業務全般を担当するようになりました。
ただ、ここまで述べた仕事は、言ってみれば目先の売上に直結するプロモーション活動です。
今後挑戦してみたいのは、より長期的な会社のブランド構築です。自分たちの会社は従業員、取引先、求職者など、ステークホルダーにどんな会社だと思われているかを調査し、実態を把握。その上で、では自分たちはどんな会社だと思われたいか、そのために自社のどんな特徴が他社との差別化になるか、どんな点を直して行かなければならないかを、自社内でよく議論して行きたいです。
このような議論と分析を通して、経営陣も従業員も、「ウチの会社はこういう会社です」「ウチの会社は●●という価値を提供する会社です」と、一言で簡潔に言えるような状態を作り出すための議論をし、それを今後のプロモーションの指針にしていくような、時間のスケールが大きい仕事にチャレンジしてみたいと考えています。
転職を考える人に伝えたいこと
もしかすると、まだまだ日本においては「転職」ということに対して後ろ向きに考える人も少なくないかも知れません。ただ、私は2度の転職はとても良い経験だったと感じています。その一番の要因は、何と言っても「自分の人生を、自分で決めている」という実感を得られていることではないかと思っています。
多くの場合、新卒で入った会社では総合職として採用され、基本的に入社後に従事する仕事や勤務地については会社が決定することであって、自分の希望通りに行くことは稀です。一方、中途採用の場合は基本的には職種を明確にした上での採用で、入社後に従事する仕事内容や働く地域についてもあらかじめ提示された状態で入社するケースが多数です。
特にITやWEB関連の世界は技術革新の速度も早いため、ずっとその職種に携わり続けているかどうかでキャリアの価値も変わって来ます。つまり、「どこの会社にいるか」よりも、「何の職種で働いているか」が重視される世界と言えます。
ですので、極めたい職種があれば、その職種を変えることなく所属する会社を変えていく、そんな働き方が他の業界よりも受け入れられている世界だと感じています。
当然、転職は人生を左右させるものですから、安易な気持ち、勢いで決めて良いものではありません。ただし、「世間の人がよく思わない」等、自分の意思と違うところでブレーキをかけてしまっているのであれば、ぜひ自分の意思を優先させて欲しいと思います。
コメント